トヨタ自動車株式会社
人事部
篠原純氏
導入事例
トヨタ自動車株式会社
GPU搭載のHCIで3D CAD利用者の働き方改革を一気に加速
- 業種 製造
- キーワード ワークスタイル , データセンター , ハイパーコンバージド , 運用・保守
- 製品カテゴリー サーバー
- 企業規模 大企業のお客様(1,000名〜)
導入について
思うように進まなかった「研究開発部門の働き方改革」
世界最大級の自動車メーカーとして、国内はもとより世界中で広くその名が知られるトヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)。日本を代表するものづくり企業としてグループ全体で約36万人もの従業員を抱える同社は、その優れた研究開発や生産、販売の戦略はもとより、人事施策の面でも常に注目を集めてきた。
事実、2016年には働き方改革へのコミットを表明し、約1万3000人の従業員を対象として在宅勤務の制度を拡大している。しかし同社 人事部 篠原純氏によれば、この在宅勤務制度への理解や浸透の度合いは部署によってまちまちだったという。
「とある部署では30%の実施率を目指す一方、別の部署では5%にも満たないといったように、部署によってばらつきがありました。『生産性向上や、仕事と育児・介護の両立に有効』との声は出てきてはいましたが、『そもそも自分たちの仕事に在宅勤務は適さない』という先入観から在宅勤務をやらないといった意見も少なくありませんでした」
特に設計開発部門では3D CADソフトウェアを使って設計業務を行っていたため、オフィスの机に設置してある高性能ワークステーション端末の利用が不可欠だと考えられていた。3D CADソフトウェアを実用レベルで動かすためには、高性能CPUや大容量メモリに加えて、3Dグラフィックスを高速描画するためのGPUが必須であり、これを搭載しないOA用PC(設計業務以外の一般業務用PC)はそもそも稼働条件を満たしていなかった。このことが、設計開発部門における在宅勤務普及のネックになっていたという。
一方、実際に設計開発部門で働くエンジニアたちの間でも、ワークステーション端末に物理的に縛られることによる働き方の制約に疑問が生じていたという。トヨタ ZEV B&D Lab 上畑賢美氏は、出産と育児に伴い2016年から在宅勤務制度の利用を始めたが、当時は自宅でできる仕事内容がかなり限られていたという。
「普段は社内で設計業務を行っていましたが、当時は自宅で3D CADを利用できる環境がありませんでしたから、育児のために自宅に仕事を持ち帰るといっても、できることはかなり限られていました」
また同社 商用ZEV基盤開発部 市田有吾氏によれば、出社して仕事を行う際にも、物理端末に縛られることで不自由に感じる場面が少なくなかったと語る。
「製造現場に出向いて現場の方々とやりとりする際、ワークステーション端末を現場に持ち出すわけにはいきませんから、やむなく紙の図面を使って説明していました。しかし紙だけでは伝えられる情報量に限りがあるため、『この場で3D CADを使って説明できれば、もっとスムーズに意思疎通が図れるのに』とずっと思っていました」
加えて、社内のIT機器を管理するDX開発推進部(以下IT部門)にとっても、ワークステーション端末の維持は「組織変更のたびに端末を移動しなければならない」「OSやソフトウェアのアップデートに手間と時間がかかる」「たとえ稼働率が低くても、遠隔地など利用場所によっては用意しておかなければならない端末も多数あり、調達コストがかさむ」と、さまざまな課題を内包していた。
LenovoとNutanixの技術を結集したHCI製品「Lenovo ThinkAgile HX Series」を採用
こうしたさまざまな課題を解決するための手段として、同社は2016年よりVDI(仮想デスクトップ)の導入検討を始めた。VDIの仮想デスクトップ環境上で3D CADソフトウェアを動かすことができれば、たとえユーザーの手元に高性能ワークステーション端末がなくとも、OA用PCさえあれば設計業務を行えるようになる。また社外からVDI環境にネットワーク経由でつなぐことで、自宅にいながら3D CADを使った設計業務の遂行が可能になる。
同社のIT部門は早速、VDI環境のアーキテクチャ検討や製品選定を始めたが、ここで白羽の矢が立ったのがハイパーコンバージドインフラ(HCI)だった。従来のようなサーバ・SAN・ストレージの三階層モデルではなく、これらの機能をすべて同一筐体内に実装したHCIを使ってVDIのシステム基盤を構築することにしたのだ。その理由について、DX開発推進部 孝久正信氏は次のように説明する。
「従来の三階層モデルと比べて仕組みがシンプルで、運用効率の向上が期待できるHCIのメリットに着目しました。またスモールスタートでき、かつ規模を柔軟に拡張できるため、ビジネス環境の変化に素早く追随できる点も高く評価した結果、最終的にHCIの採用を決めました」
早速、当時各ベンダーから提供されていた主要なHCI製品を比較検討した結果、最終的に同社が選んだのがLenovoのサーバハードウェアとNutanixのHCIソフトウェアを組み合わせた「Lenovo Converged HX Series」だった。選定の理由について、孝久氏は「NutanixさんはHCIの分野のパイオニアであると同時に、当時はHCI製品としての機能や安定性、実績において抜きんでていました」と説明する。
そしてもう1つの大きな選定理由が、3Dグラフィックス描画の性能だった。3D CADのグラフィックスを実用レベルで描画するには、GPU(Graphics Processing Unit)の力を借りる必要がある。これを仮想環境上で利用するための技術としては幾つかの方式があるが、2016年当時トヨタの設計業務において唯一実用レベルに達していると考えられたのがNVIDIAの「仮想GPU(vGPU)」技術だった。
NutanixのHCI製品は早くからこのvGPUをサポートしていたが、当時HCI上でvGPUをサポートする製品はNutanix以外にはまだ極めて少なく、実績も乏しかった。そのため、大規模なVDI環境におけるvGPUを使った3D CADの運用は、技術的に大きなハードルを伴うと考えられた。そのような中、これまで長らくワークステーション端末の導入・サポートを実施していただいた 実績があったことに加え、サーバ導入の実績はないものの米沢工場での国内基準 の品質管理など独自の取り組みをしている信頼感から、Lenovoがパートナーとして選ばれたという。
「Lenovoさんは単に製品の品質や性能が優れているだけでなく、ソフトウェアも含めたトータルの提案力や対応力に優れており、『VDI上で3Dグラフィックスを使う』という大きなチャレンジに対して私たちと一緒に取り組んでいただけるのではないかと考え、パートナーとして選ばせていただきました」
3D CAD環境のVDI化により設計エンジニアの働き方改革を強力に後押し
こうして同社は、Lenovo ThinkAgile HX Seriesの正式採用を決定した。早速2018年4月から、まずは実証実験としてGPU搭載のLenovo ThinkAgile HX Series3ノード分を初めて導入。良好な結果が得られたため、2020年にはいよいよ物理ワークステーション端末約1000台分をVDIの仮想デスクトップ環境に一斉に置き換えた。
こうした3D CADソフトウェアが稼働する仮想デスクトップ環境の設計開発部門への提供は、ユーザーから「新たな働き方が可能になった」と極めて好評を博した。同社 先進ボデー開発部 辻奈緒美氏は、自宅からVDI環境に接続して3D CADソフトウェアが利用できるようになったことで、コロナ禍に伴う在宅勤務が可能になったという。
「コロナ禍に伴い、子どもが通う小学校が2020年3月から休校になり、私自身も在宅勤務せざるを得なくなりましたが、3D CADを、VDIを通じて利用できる環境が整備されていたおかげで、自宅でもほぼ不自由なく設計業務を行えています」
また上畑氏と市田氏も同様に、コロナ禍以降はVDIを活用することで在宅勤務を取り入れつつ、「取引先や他部署との打合せの際に、その場で3D CADの画面を示しながらコミュニケーションできるようになった」(上畑氏)、「現場の担当者と3D CADのモデルを一緒に見ながら突っ込んだ議論ができるようになった」(市田氏)と、業務効率の向上に大きな効果があったことを高く評価する。
また当初は「物理端末と比べて、VDIは3Dグラフィックスの描画性能が落ちるのではないか?」との懸念もあったが、上畑氏によれば「当初は若干の遅さも感じましたが、今ではほとんど差を感じなくなりました」という。
なお2020年のコロナ禍に際してトヨタでは大々的に在宅勤務を導入し、その際に設計開発部門および生産技術部門向けのVDI環境も急遽拡張する必要に迫られた。緊急事態に直面してLenovoにシステム規模拡張の相談を持ち掛けたところ、わずか2カ月後には追加約1000台分の環境を新たに立ち上げることができたという。
「短期間の内に環境を構築できるHCIのメリットが大いに発揮されましたが、同時にLenovoさんも製品を迅速に調達・納品いただけるよう手を尽くしていただき、本当に助かりました」(孝久氏)
こうした経緯を踏まえ、同社では今後も段階的に物理ワークステーション端末のVDIへの置き換えを進めていく予定だ。共用端末や低稼働端末をVDIに集約していくことで端末(仮想デスクトップ)数の大幅な削減を見込んでおり、最終的には約半分まで削減して大幅なコスト削減効果を狙っているという。
「今後はトヨタだけでなく、トヨタグループにも同様の仕組みを展開していく予定です。また現時点では、VDI上での3D CADソフトウェアの利用は実現できているものの、CAEソフトウェアは処理負荷が極めて高く、まだ利用できていません。しかし将来的にはこれもVDIで使えるようにして、研究開発部門の働き方改革をさらに推し進めていきたいと考えています」(孝久氏)
トヨタ自動車株式会社
ZEV B&D Lab
上畑賢美氏
トヨタ自動車株式会社
商用ZEV基盤開発部
市田有吾氏
トヨタ自動車株式会社
DX開発推進部
孝久正信氏
トヨタ自動車株式会社
先進ボデー開発部
辻奈緒美氏
この課題を解決した製品・ソリューション
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Lenovo ThinkAgile HX3320
信頼性と拡張性に優れたレノボのサーバーにNutanixのソフトウェアを搭載。
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