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特集

ThinkStation P360 Ultra、ThinkPad P1/P14s 検証

昨今、デジタルツインの導入や点群データの活用など、大規模なデータ処理を必要とするシーンが増えており、それに対応するために多くの製造業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいる。その中で、設計などの直接部門だけでなく、製造ラインや物流管理など、間接的に重要な役割を担う生産技術部門においてもデジタル化が求められている。さらに、コロナ禍からのテレワーク推進により、多拠点あるいはフリーアドレスといった形で、働き方もこれまでより多様化している。

生産ラインの管理や設計を担う生産技術部門では、効率的な生産ラインの稼働や、設備の自動化による省力化・省人化、可(べき)動率や品質価値の向上、労働生産性の改善など、さまざまな課題に直面し、日々試行錯誤を重ねているだろう。


機械設計部門で広く活用されているオートデスクの製造業向けソリューションパッケージ「Product Design & Manufacturing Collection」(以下、PDMC)だが、InventorやAutoCADを利用した3D製品設計はもちろんのこと、工場全体の設備を効率的にすべて3Dモデルで再現できるという機能も併せ持っている。

工場レイアウトの3D設計はもちろんのこと、3Dモデルの設備を自由に歩き回り、動線やクリアランスのチェックができ、さらに3Dモデルと紐づいた2Dレイアウト図面への修正およびデータ反映もリアルタイムに実行できるため、現場からのフィードバックにも柔軟に対応できる。


これにより、設置前の段階から問題の改善を行う、つまり『デジタルツイン』の実現が容易にできるのだ。

こうした3Dデータを扱うソフトウェアを操作するには、それ相応のパフォーマンス性と堅牢性を備えたコンピューティングプラットフォーム、すなわちワークステーションを導入する必要がある。さらには、多様な働き方の推進や人材不足による業務効率化の観点から、時間と場所を問わず働ける環境の整備も必要だ。では、これらニーズを満たすにはどのようなワークステーションを採用すべきだろうか。

レノボでは、PDMCを始めInventor、Fusion 360といったオートデスク製造ソリューションの導入支援サービスを提供している株式会社CADistと、同社のパートナー企業でありデザインとファブリケーションを一元化し、エンドユーザーと共創しながらモノづくりをしていく「モノづくり共創サービス」を提供している株式会社chataの協力のもと、PDMCを用いて、「Lenovo ThinkStation P360 Ultra」「Lenovo ThinkPad P1」「Lenovo ThinkPad P14s」の3製品を対象にパフォーマンス検証を行った。本記事では、検証結果から、レノボのワークステーションを導入することでどのようなメリットを得られるのかについて解説する。

  • 株式会社CADist
    取締役CSO
    千野 貴弘 氏

  • 株式会社CADist
    取締役COO
    田中 志門 氏

  • 株式会社chata
    代表取締役/コーディネーター
    治郎丸 勝 氏



3D設計で、設計初期の部品干渉問題の洗い出しが必要

現場でクライアントから修正指示をもらうシーンが多々あり、そのたびに設計を修正する必要がある

生産設備や既存の設備などに導入する機器の設計は、機器単体だけではなく、そのエリアの一部もしくは全域に及ぶ一連のシステムとして設計されることも多い。その設計の際には、顧客や製造部門、施工業者との綿密な打ち合わせや確認作業が行われる。設備が出来上がると、関係者が現場に立ち会って検収を実施する。DXが進む最近では、設備設計における打ち合わせや立ち合いの場で確認する機械図面は、従来の紙ベースから、ノートPCやタブレット端末などに表示させるデジタルへシフトしつつある。

従来、設備設計においては、現場で組み立てや工事を進めた段階で既存部品等との干渉や据え付け不良などの問題が発生し、その際には部品や装置の作り直し、最悪の場合は設計のやり直しになるケースもあった。

組付け関係の問題だけではなく、現場で設備が具現化されていく過程で、突如顧客から、変更要望や意向との違いの指摘などを受ける場合もよくあることだ。そうした後工程での問題が多いほど、コストがかさみ、納期を圧迫していくことになる。


3Dで設備をリアルに作り上げるオールインワンソリューション

今回検証で用いたPDMCは、InventorやAutoCADなど、3D 設計に必要なソフトウェアを網羅したオールインワンソリューションだ。工場全体の設備をすべて3Dモデルで再現でき、干渉状態の認識もできる。PDMCに含まれるNavisworksはウォークスルーの機能も備えており、設計している設備の中を歩き回るようにデータを確認できるのもポイントだ。また、PDMC内の設備や部品の3Dモデルは全体モデルを参照した状態で常に修正およびデータ反映が可能。3Dモデルを修正すれば、それと紐づいた2D図面にも即座に同期される仕組みになっている。

PDMCの機能の一つである「Factory Design Utilities」には、工場設備向けの3Dデータテンプレートを豊富に備えており、3Dレイアウトデータを簡単かつ素早く準備することが可能だ。また、AutoCADとも連動しており、アイコンをクリックするだけでDWGと3Dデータとの間にリンク関係を持たせることもできる。


顧客や製造部門、施工業者と設備導入の現場で、PDMCで作られた納め先の環境情報を含む3D設計データを見ながらディスカッションを進めれば、その場で顧客要望や加工要件を設計にブラッシュアップすることが可能になる。3Dデータであれば、機械図面を読みなれない関係者であっても、現場での設計物のイメージがしやすくなり、物ができないうちから要望などをアジャイルに反映できるようになるだろう。

このようにPDMC の3Dモデルで再現された設計中の設備を用いて、実際に製造に手を掛けていない設計初期の段階から問題を洗い出すことで、組み立てや設置のフェーズでの手戻りを削減できるようになるのだ。

実際にPDMCで作成した設計モデルでは、工作機械はもちろん、配線配管、さらには事務備品、グレーチングなど細部の質感まで、3Dデータで詳細に再現し、現場に極めて近い状況を仮想空間内に作りだす。これにより、設計データと実際の現場とのギャップを極力減らし、設計段階での問題洗い出しの精度を高める。


当然のことながら、このような設計環境は、今日の卓越したソフトウェアや3Dデータ技術のみではなく、その裏で大規模に膨れ上がる計算処理を支えるハードウェアの処理性能の向上があってこそ実現する

検証内容の詳細

今回の検証の目的は、「PDMC」のような高負荷な3D CADの処理に、レノボのワークステーションが耐えられるかどうかをチェックすることにある。検証では、CADistがPDMCで作成した工場ほぼ1棟分の大規模レイアウトアセンブリデータを用意し、モバイルワークステーションシリーズ「ThinkPad P1 Gen 5」「ThinkPad P14s Gen 3」と、デスクトップワークステーション「ThinkStation P360 Ultra」の処理性能を評価した。また、比較モデルとして、CADistが所有する3D CADのオペレーションで用いるモバイルワークステーション2種と現在製造業界で広く普及しているであろう2世代ほど前の旧機種を用いた。

工場レイアウトの大規模データ

部品点数:約40万点(約370ユニット)

検証マシンのスペック

モデル

CPU

GPU

メモリ

ThinkPad P14s Gen 3

Intel Core i7-1260P

NVIDIA T550
Laptop GPU (4GB)

16GB

ThinkPad P1 Gen 5

Intel Core i7-12800H

NVIDIA RTX A2000
Laptop GPU (8GB)

16GB

ThinkStation P360

Ultra Intel Core i7-12700

NVIDIA T1000 (8GB)

16GB


(比較モデル)

モデル

CPU

GPU

メモリ

CADist 外出・出張用のモバイルワークステーション

Intel Core i9

NVIDIA Quadro P620

32GB

CADist Fusion 360をメインとしたCADスクールで用いているモバイルワークステーション

Intel Core i7

NVIDIA Quadro P620

16GB

ThinkStation P340

Intel Core i7-10700

NVIDIA Quadro P1000

16GB


上記のマシンで、PDMCの工場ほぼ1棟分の大規模レイアウトアセンブリデータを用いて「2D~3Dデータへの変換」「ウォークスルー機能(Navisworks)データ変換」「データ編集(一部モデルの削除)、反映」にかかる時間を計測し、比較した。

Lenovo ThinkPad P1とThinkStation P360で優位性を確認

検証結果としては、CADistの外出・出張用のモバイルワークステーションでは、「2D~3Dデータへの変換」が528.63秒(約9分弱)、「ウォークスルー機能(Navis)データ変換」では304.55秒(約5分)、「データ編集(一部モデルの削除)、反映」では34.44秒だった。それより性能が劣るCADスクールの教育で用いているモバイルワークステーションに至っては、高負荷に耐え切れず、いずれの処理すらも行えないという結果になった。

デスクトップワークステーションについては、P340(旧機種)は「2D~3Dデータへの変換」が373.77秒(約6分)、「ウォークスルー機能(Navis)データ変換」が193.88秒(約3分)、「データ編集(一部モデルの削除)、反映」が33.94秒であった。

一方、P360 Ultraは、「2D~3Dデータへの変換」が248.72秒(約4分)、「ウォークスルー機能(Navis)データ変換」が152.34秒(2.5分)、「データ編集(一部モデルの削除)、反映」が21.48秒であり、いずれも処理時間の短縮を実現している

モバイルワークステーションについては、P14s Gen 3は、「2D~3Dデータへの変換」が358.13秒(約6分弱)と表示時間については、外出・出張用のモバイルワークステーションの結果比で約3分短縮。「ウォークスルー機能(Navis)データ変換」が328.97秒(約5.5分)、「データ編集(一部モデルの削除)、反映」が37.81秒と微増だが、これは誤差の範囲内とのこと。

P1 Gen 5では3つのテスト項目すべてで改善効果が見られた。「2D~3Dデータへの変換」が306.72秒(約5分)とP14sと比較して約1秒短縮し、「ウォークスルー機能(Navis)データ変換」が189.63秒(約3分)、「データ編集(一部モデルの削除)、反映」が28.78秒と短縮できている。

CADistの外出・出張用のモバイルワークステーションとP1 Gen 5を比較すると、「2D~3Dデータへの変換」の処理においては約4分、「ウォークスルー機能(Navis)データ変換」は約2分、「データ編集(一部モデルの削除)、反映」は約5.6秒短縮している。

現場作業に適した堅牢性と軽量性、そして高いパフォーマンスで設計課題の解決を支援

今回の検証結果を受け、CADist 取締役CSO 千野貴弘氏は「1プロセスで分単位の短縮は、一見すると少なく感じられるかもしれませんが、業務での体感としては大きく感じます。設計作業ではこうした処理を1回だけではなく、1日のうちで幾度も処理を行うため、積み重なっての時間短縮効果は特に大きいのです」と語る。

省スペース性と性能を両立した
Lenovo ThinkStation P360 Ultra

これに続けてCADist 取締役COO 田中志門氏は「PDMCによる自動処理と、今回検証した一連のレノボのワークステーションによる処理のスピード感は、日常でCADを使用している人にとっては、大きなメリットになるはずです。今回の検証では、サンプルデータを用いて可能な限り負荷をかけた状態で視点移動を行いました。従来使っていたモバイルワークステーションでは“カクツキ”があり、ズームイン/アウトの動作が重いなど、ストレスを感じる場面もありましたが、レノボの検証機ではスムーズにこれらの操作が行えました」と述べる。

こうした短縮効果と快適さは、多忙な設計業務の中では決して無視することのできない大きな価値になるはずだ。


解析やシミュレーション用途などソフトウェアの要求が高度になってくると、当然のことながら高性能なCPUやGPUが求められるが、注意すべき点は他にもある。例えば、ソフトウェアを稼働させた際の発熱にも注意を払う必要がある。その点、Lenovoのワークステーションは冷却機能にこだわって開発されているため、高いパフォーマンスで快適に業務を行えるはずだ。

「作業効率を考えると部品点数が多い、または形状が複雑など、より細密な設計作業を伴う場合、ノート型のモバイルワークステーションを使って作業をするより、P360 Ultraを使ってモニター出力し、大画面で作業を行うほうが効率的ですし、検証に使用したCPUのスペック(やメモリ容量)に依存するのか、性能面でも圧倒的にP360 Ultraが優れていました。そのため、パフォーマンス性が求められる3Dモデルの設計ではP360 Ultraを用いて、お客様先で参照する際にはモバイルワークステーションと使い分けするのがベストだと考えます」(千野氏)

さらに、P360 Ultraはデスクトップ型の一種でありながら、約87×223×202mm/約3.6kgとコンパクトかつ軽量である。「当社も含め、昨今フリーアドレスを採用している会社さんも多く見受けられます。このような職場では、デスクトップ型マシンでも移動させる機会があります。そうした時には軽く、コンパクトな筐体はありがたいのではと思います。また、設計業務では机の上に大きな図面を広げて、観ながら作業することもありますが、P360 Ultraはとてもコンパクトなので机のスペースを広々と使えます」と田中氏は述べている。

また、検証を受け、レノボのモバイルワークステーションについても千野氏は高く評価している。

心地よい打鍵感も生産性に直結する

「P14s Gen 3とP1 Gen 5は、当社でこれまで使用していたモバイルワークステーションよりも圧倒的に軽量です。しかも、キーボード部に力をかけても凹みにくいため、筐体自体が頑丈で品質も高いといえます。現場でマシンを持って動き回るシーンが多くあるため、マシンが軽くて堅牢であることは安心感につながります」(千野氏)

CADistのパートナー企業であるchata 代表取締役/コーディネーターの治郎丸勝氏は、「私のかかわる現場では、設備据え付け後のデザイン変更など、現場レベルでの問題が発生することもあり、設計の見直しといった出戻りが日常茶飯事です。今回の評価結果のようなスピード感を発揮できるのであれば、これらの問題解決がスムーズに進むでしょうから、PDMCやP360 Ultra、P1 Gen 5の導入を前向きに検討したいです」と話す。


工場にワークステーションを持ち出すこともあるため、堅牢性が特に重要になる

オートデスクPDMCとレノボのワークステーションの組み合わせにより、オフィスでのより緻密な設計作業が効率化され、3Dデータを活用した最新の設計フローにより設計コストや工数短縮が見込めるため、設計者はより複雑な設計や難しい課題の解決に注力できるようになるだろう。また、モバイルワークステーションを利用すれば、お客様先でもその場で3Dモデルを確認・修正したり、設計部門のテレワークなど柔軟な働き方も可能になるはずだ。

昨今、CADデータや点群データ取り込みを元に仮想空間上に作り上げた工場や生産ラインのコピーをベースに、IoTやAIも駆使して様々なシミュレーション、最適化を図る「デジタルツイン」の効用も語られ始めている。


今回検証に用いたP360 UltraやP1 Gen 5はこのコンパクト・薄型の筐体でハイエンドなNVIDIA RTX A5500 Laptop GPUまで対応するという。このスペックであればデジタルツインやAIといった用途に向けても十分検討に値する選択肢となるだろう。

本記事の内容は、2023年3月現在の情報です。




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