特集
熱設計への徹底したこだわりが実現した「グラフィックス性能67%アップ」と軽量・小型の両立
レノボの「ThinkPad P1第4世代」は、前世代機と同様の小型・軽量の設計ながら、モバイル向けのハイエンドGPU「NVIDIA® RTX A5000 Laptop GPU」に対応し、かつ、アスペクト比 16:10 の縦にワイドな16インチディスプレイを採用したワークステーションです。
大幅な性能向上と小型・軽量を両立させるために冷却機構を一新しています。
その熱設計開発の当事者であるレノボ・ジャパン大和研究所プロダクト・サーマル・デザイン・イノベーションのエンジニア、内野顕範と北村昌宏にThinkPad P1第4世代に採用された新たな冷却機構の全容について明かしてもらいます。
モビリティを損なわずに性能を極限まで高めるために
今日、建設、製造、映像制作など、さまざまな業種・業態で、より性能が高く、携帯性に優れ、かつワイドなディスプレイを備えたモバイルワークステーションが強く求められるようになっています。
例えば、建設業界では「i-Construction」の潮流の中で、BIM(Building Information Modeling)/ CIM(Construction Information Modeling)アプリケーションの活用が進み、BIM・CIMの3Dモデルを施工現場や施主などへのプレゼンテーションの場でストレスなく扱える高性能モバイルワークステーションへの需要が大きくあります。
製造における設計の現場でも、ものづくりのフロントローディングの進展などによってワークステーションに対する性能要求が高まり続け、一方でエンジニアの業務効率の向上や働き方改革に向けてモビリティに優れたワークステーションに対するニーズが膨らんでいます。
同様に、映像制作の現場でもワークステーションに高い性能とモビリティを同時に求めるケースが増えています。映像の4K・8K化や制作での3D CG活用が進み、ワークステーションで扱うデータ量が増大の一途をたどる中で、クリエイターによる場所を選ばない働き方を実現する必要性が増しているからです。
「加えて、AI(人工知能)による画像解析が、映像制作や医療における診察・診断の現場で使われるようになり、それも高性能GPUを備えたモバイルワークステーションのニーズの拡大につながっています」と、レノボ・ジャパン ワークステーション & クライアントAI事業部 シニアプロダクトマネージャーの高木孝之は指摘し、こう続けます。
「まとめて言えば、ワークステーションを使うあらゆる企業・組織が、より速く、よりコンパクトな、そしてよりワイドなディスプレイを備えた製品を強く求めているということです。そうした要求を満たすための製品が『ThinkPad P1第4世代』にほかなりません」
実際、ThinkPad P1第4世代は、前世代機のコンパクト性をそのままにモバイル用のハイエンドGPU「NVIDIA® RTX A5000 Laptop GPU」(以下、RTX A5000)と「インテル® Core™ i9/i7 H プロセッサー」の搭載を可能にしています。これにより、前世代機の可搬性を損なわずに、67%のグラフィック性能の向上と47%のCPU性能の向上を実現しています(図1)。
図1:ThinkPad P1第4世代 vs. 第3世代のベンチマークスコアの比較
ThinkPad P1第4世代のベンチマークスコア
グラフィックベンチマーク (3DMark Sky Diver) :+67%
CPUスコア (Cinebench R20) :+41%
総合的なパフォーマンスベンチマーク (PC mark10 Extended):+16%
ThinkPad P1第4世代ではまた、ディスプレイを15.6インチから16インチへと大型化するのと併せてアスペクト比(画面の横縦比)を通常の16:9ではなく縦にワイドな16:10にし、エンジニアリング系・オフィスオートメーション系のアプリケーションやWebページの操作性・視認性を増しています。
もちろん、こうした高性能化を図りながら、本体のコンパクト性を維持するうえでは乗り越えるべき設計開発上のハードルがいくつもありました。なかでも最も大きなチャレンジと言えたのが、高性能化に伴う熱量増加の問題をいかに解決するかです。
以下、この問題を解決するために設計開発されたThinkPad P第4世代の冷却機構についてご紹介します。
新開発の冷却機構で発熱量57%アップに対処する
ThinkPad P1第4世代は、GPUを搭載しない「エントリーモデル」と、GPUに「NVIDIA® RTX A2000 Laptop GPU」を採用する「ミッドモデル」、そしてGPUとしてRTX A5000が選べる「ハイエンドモデル」の3タイプに大きく分かれます。
このうち、ハイエンドモデルではGPU・CPUの合計発熱量が、前世代機より約57%も上がっています。その中で全体のコンパクト性と可用性(安定稼働)を確保するには、新たな冷却機構が必要とされました。その開発努力によって完成した冷却機構にはハードウェアとソフトウェアの合計で次の6つの仕組みが備わっています。
ハードウェアの仕組み
(1)強化された大型デュアルファン
(2)ハイブリッドクーリングテクノロジー
(3)キーボード吸気
(4)デュアルバイパス構造
ソフトウェアの仕組み
(5)ウルトラパフォーマンスモード
(6)リッド・クローズ・モード
以下、これらの仕組みについてより具体的に見ていきます。
「強化されたデュアルファン」と「ハイブリッドクーリングテクノロジー」
ThinkPad P1第4世代では、GPU・CPUを冷却する機構として前世代機と同様に大型のデュアルファンを搭載しています。なかでもハイエンドモデルでは、LCP(液晶ポリマー)使った薄く強度の強いブレードを採用しつつ、容積を前世代機比で30%を拡大させた新開発のデュアルファンを搭載しています。
加えてハイエンドモデルには「ベイパーチャンバー」と「ヒートパイプ」のそれぞれの良さを組み合わせた特許出願中の新技術「ハイブリッドクーリングテクノロジー」が採用されています(図2)。
図2:「ハイブリッドクーリングテクノロジー」のイメージ
「ベイパーチャンバーは平面上の熱拡散に優れた仕組みであり、これでGPU、CPUなどの電子部品を覆うことで特定個所の熱量が許容範囲を超えてしまうホットスポットの発生を抑制することが可能になります。対するヒートパイプは点から点への熱輸送に優れており、ベイパーチャンバーとの組み合わせによって、筐体全体に熱が効率的に拡散されるようになります」と大和研究所の北村昌宏は説明します。
ThinkPad P1の冷却機構。写真左から第3世代、第4世代エントリーモデル、同ミッドレンジモデル、同ハイエンドモデルの冷却機構
さらに、ThinkPad P1第4世代ではSSDに「PCIe Gen4 SSD」を採用し、前世代機のSSD(PCIe Gen3 SSD)に比べてディスク性能を40%向上させており(「PC Mark 10 Full Disk Benchmark」結果)、「Crystal Disk Mark」によるシーケンシャルリードテストにおいても前世代機SSDの2倍の性能を発揮しています。
「この性能強化によりSSDの発熱量は30%増えていますが、PCIe Gen4 SSD専用ヒートシンクの搭載によって熱を拡散させ、問題を解決しています」(北村)。
「キーボード吸気」と「デュアルバイパス」
ThinkPad P1第4世代で採用した「キーボード吸気」は、キーボードの底面に吸気用の小さな穴を設けて冷却性能を上げる特許出現中の仕組みです。ポイントは、“排水”の機構によって「防滴」と「吸気」を両立させている点にあります(図3)。
図3:“吸気”と“防滴”を両立させたThinkPad P1第4世代の新しい構造
「従来、キーボードに穴を開けてしまうとバックライト性能が低下し、かつ、MILスペック準拠の防滴性が担保できないといった問題がありましたが、その問題を穴位置の精緻な調整と新開発の防滴機構によって解決したのが、ThinkPad P1第4世代におけるキーボード吸気の仕組みです。キーボード吸気の採用で前世代機と同じ騒音レベルでファンの回転数が減少し、風量が増加するという改善が実現され、キーボード面の熱量も引き下げられています」(北村)。
一方、「デュアルバイパス構造」は、カバー面のヒートスポットをピンポインで冷却する仕組みです。恒常的な風の流れを「フィン」、あるいはヒートパイプとカバーとの間につくることでホットスポットの温度上昇を大きく抑えることに成功しています(図4)
図4:ThinkPad P1第4世代の「ディアルバイパス構造」
「ウルトラパフォーマンスモード」と「リッド・クローズ・モード」
先に触れたとおり、ThinkPad P1第4世代の「ウルトラパフォーマンスモード」と「リッド・クローズ・モード」はともに冷却性能を向上させるソフトウェアの仕組みです。
このうち「ウルトラパフォーマンスモード」とは、CPUとGPUの性能を極限まで引き出すためのモードです。ソフトウェアによる動作モードの切り替えは前世代機でもサポートされていましたが、第4世代機ではその機能がさらに強化され、以下の4つの段階を基本にGPU/CPUの性能を柔軟に調節することができます。
(1)静音:快適な操作性に配慮しつつファン音量・消費電力を低減するモード
(2)バランス:幅広い使用状況に最適化された動作モード
(3)パフォーマンス:ファン挙動に配慮しつつGPU/CPUの性能を引き出すモード
(4)ウルトラパフォーマンス:GPU/CPUの性能を限界まで引き出すモード
一方、「リッド・クローズ・モード」は、LCDを閉じた状態でもパフォーマンスを維持するためのソフトウェア制御の機能です。
「今日、モバイルワークステーションを室内用と外出用の兼用で用い、室内では外付けの大型ディスプレイに接続してLCDを閉じた状態で使い続けるお客さまが増えています。リッド・クローズ・モードは、そうした活用スタイルを想定したモードです。従来はLCDを閉じていると筐体内に熱がこもり、パフォーマンスが低下していました。
それに対してリッド・クローズ・モードではLCDを閉じた際のノイズ低下分、ファンの回転数を自動的に上げることでパフォーマンスの低下を防ぐ仕組みになっています」と、大和研究所の内野顕範は説明を加えます。
モバイルワークステーションの性能は熱設計で決まる
以上の内容からもお分かりいただけるとおり、ThinkPad P1第4世代には冷却機構、あるいは熱設計へのレノボの強いこだわりが凝縮されています。
実際、ThinkPad P1第4世代の熱設計開発においては、ハードウェアのみならず、ソフトウェアに関しても、お客さまの期待値を実現する設計と、その設計が本当に期待値に沿っているかどうかの検証を徹底して行ったと内野は話します。
例えば、基板上温度センサによるファン制御については、ファンを無駄に動作させない設計が重要となり、設計時には「非可聴音量」の活用がポイントとなります。そこで、熱設計開発チームでは300種類に上るお客さまの使用環境を検討し、その検討結果に基づいてファン制御の独自テストを行いました。結果として、ThinkPad P1第4世代では他の製品に比べて「ファン音が聞こえる時間」が短いこと──言い換えれば、ファン制御の設計がお客さまの期待値に沿っていることが確認できたと内野は明かします。
こうした熱設計へのこだわりは、ThinkPadの設計開発チームが長年にわたり連綿と受け継いできたものでもあります。
「モバイルワークステーションやノートPCの性能は熱設計によって決定づけられ、熱設計の良否が製品の競争力を大きく左右します。当社では、これまで築いてきた熱設計におけるアドバンテージを活かしながら、ハードウェアとソフトウェアの両面で冷却テクノロジーの革新に取り組み、お客さにとって最適なモバイルワークステーションの提供に力を注いでいきます」(内野)。
プロフィール
北村 昌宏 |
レノボ・ジャパン株式会社 |
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内野 顕範 |
レノボ・ジャパン株式会社 |
高木 孝之 |
レノボ・ジャパン株式会社 |