導入事例

脳科学者/医学博士/アーティスト 中野信子氏

"迷う力"を探る脳科学者の、止まらない相棒
脳科学者・アーティスト 中野信子氏の研究と創作を支えるThinkPad

概要

決断力ではなく、“迷う力”ではないか――。脳科学者としてヒトの意思決定の謎を追い、アーティストとして脳波を可視化する作品を手がける中野信子氏。東京と京都を往復しながら研究・執筆・創作を並行させる日々を支えるのが、Lenovoのモバイルワークステーション「ThinkPad P1」です。2026年8月末から開催されている芸術祭「神戸六甲ミーツ・アート2026 beyond」への出展にあたっては、新たに「ThinkPad P14s Gen 6」の2台で作品を稼働させています。研究と芸術、その両方の現場で“止まらない”マシンが果たす役割を聞きました。


課題

東京と京都の2拠点で研究・執筆・創作を行う中野氏にとって、移動時間をいかに創造的な作業にあてられるかが、成果の質と量を左右する。脳画像の解析やAIを用いた領域横断的な調査には高い処理性能が求められ、さらに芸術祭での長期展示では、機材を安定して動かし続ける堅牢性も不可欠だった。

ソリューション

日常の研究・創作に「ThinkPad P1」を、芸術祭「神戸六甲ミーツ・アート2026 beyond」での作品展示に「ThinkPad P14s Gen 6」の2台を活用。場所を選ばずに高負荷な解析やプログラム制作を行える環境を実現した。

導入効果

かつて2日を要した脳画像の解析が数時間に短縮。移動中や夜間にも処理を任せられるようになり、「働き方が変わった」と語るほど、研究、創作のリズムが変化した。展示現場でも、Lenovoのモバイルワークステーションならではの温度や湿気の変化に耐える堅牢性が、長時間の連続稼働を支えている。


導入


目の前の利益より遅延報酬を選ぶ、脳の仕組みに迫る研究

脳科学者として中野氏が現在取り組む研究テーマは、「ヒトの前頭前皮質における遅延報酬への選好とその進化生物学的意義」です。専門的な表現をかみ砕くと「人はなぜ、目の前の利益にすぐ飛びつかず、あえて先の報酬を選ぶことがあるのか」という問いに対する研究になります。

「私たちの脳には、『それは美しくない』『振る舞いとしていかがなものか』と、目先の利益に飛びつくことをためらわせる機能があります。脳はそれほどリソースに余裕がないのに、進化的に新しい前頭前野に、わざわざ“足を引っ張る”ような領域を後付けでつけている。美しさや倫理、そして目先の利益より遅延報酬を優先させる領域を、なぜ後付けしたのか。それが私の関心です」(中野氏)

脳科学者/医学博士/アーティスト 中野信子氏

実際、目先の報酬を「我慢できる人」と「できない人」とでは、前頭前皮質の厚さに差があることがわかっています。遅延報酬を選べるほうが知能や環境への適応の面で有利だとされますが、中野氏の関心はその先にあります。それならばなぜ、人はどちらとも決めきれずに"迷う"のか。たとえば数量限定のセール品や先着順の特典のように、待っていては手に入らないものもあります。 

「だからこそ、どちらも選べるように"迷う"仕組みを持っていたほうが、生存戦略としては有利だったのでしょう。決断力とよく言われますが、私はむしろ"迷う力"ではないかと思うのです」(中野氏)

こうした研究では、論文だけでなく一般に向けたアウトプットも多く、領域を横断して大量の文献を扱い、研究手法そのものを精査する作業が欠かせません。「AIの力もかなり使いますし、メタ的な解析でワークステーションを使う場面は多いですね」と中野氏は話します。

こうした負荷の高い作業を、場所を問わず進められることが鍵になります。中野氏の研究・創作は、東京と京都の2拠点生活のなかで営まれているからです。週末は京都で過ごすことが多く、少なくとも週2回は新幹線で移動する日々を過ごしています。片道2~3時間の車中こそ、貴重な作業時間なのです。

「通信環境が限られる移動中は、むしろスタンドアロンでできる分析や執筆がはかどります。PCがインターネットにつながっていると、それが“ディストラクター(注意をそらすもの)”になってしまう。少し隔離された環境で、同じ対象を別の角度から見直す思考実験をすることが多いです」(中野氏)

だからこそ、モバイルワークステーションの持ち運びの簡便さやバッテリーの持続時間がとても重要になります。デスクトップでは持ち出せない解析を、移動先でも進められることが、2拠点のワークスタイルの前提になっているのです。

脳を可視化するアートシリーズを通して「自分とは何か」を世に問う

中野氏はもうひとつの側面として、アーティストの顔を持ち合わせており、脳波などの生体データを用いた作品制作にも取り組んでいます。使うのは、4電極ほどの簡易的な脳波計です。電極数を抑えて解像度をあえて落としているのは、そのほうが「人類に共通する特徴」を捉えやすいからです。「顔も、細かく見れば一人ひとり違うけれど、引きで見れば"人間だ"とわかる。脳波も同じで、粗く見ると人間らしさが見えてくるのが面白いのです」と中野氏は話します。

こうした表現の着想にあるのが、脳を映す「鏡」という発想です。人はふだん、自分の顔さえ鏡がなければ見られません。脳も同じで、いつも使っているのに、実はよくわかっていないと中野氏は話します。

「私たちは、自分で決めていると思っていることの多くを、環境要因に大きく影響されて決めています。ランチ一つ、結婚や職業の選択さえも。脳に関しては、まだ"鏡"が提供されていない。少し外から自分の脳を見てみたいという気持ちで取り組んでいるのが、私のアートシリーズです」(中野氏)

芸術作品の連続稼働を支える、モバイルワークステーションの堅牢性

2026年8月末から約3か月間、中野氏は芸術祭「神戸六甲ミーツ・アート2026 beyond」に出展しました。出展作は、2人の脳波を測定し、その同期の度合いに応じて「流れ落ちる水が球体に変化する」体験型のインスタレーション(※1)です。

発想のきっかけになったのは、理科の実験でおなじみのリサージュ図形(※2)でした。縦と横に別々の波を加えると、波長と位相が合致したときに、乱れていた波が一つの円を描きます。「平面では円になるこの現象を、3次元に拡張すれば球体になるのではないか̶̶。これが、出発点でした。実際に計算させ、2人の脳波で試すと、シャインマスカットほどの大きさの球体ができました」と中野氏は話します。

 実験には、ウクライナ人とロシア人のペアが協力しました。キャスティングは難航したそうですが、中野氏はこの作品に、「私たちには止められないと思っていた流れも、もしかしたら止められるかもしれない」というメッセージを込めています。

この展示で稼働するのが「ThinkPad P14s Gen 6」の2台です。2人分の脳波をそれぞれ受け持つ構成で、稼働は1日あたり8~9時間に及びます。水を扱う空間だけに、イベント開催前は、耐環境性に懸念を抱いていたといいます。

「濡れないよう配慮はしていますが、湿度の高い場所での使用には不安もありました。ですが、堅牢性に優れるThinkPad P14s Gen 6は、安定して動作しています」(中野氏)

長時間の連続稼働のなかで、堅牢性と安定性が作品の成立そのものを左右する展示現場は、モバイルワークステーションの真価が問われる場でもあります。なお、高性能なGPUを積むワークステーションでは発熱との戦いも避けられませんが、ThinkPad P14s Gen 6には熱伝導を高める素材や排熱設計、キーボードの発熱抑制といった工夫が施されています。

※1 インスタレーション:空間全体を使い、鑑賞者がその中に身を置いて体験する美術作品
※2 リサージュ図形:二つの振動を縦軸・横軸に合成して得られる曲線。振動数や位相の関係によって円・楕円・8の字などが現れる

高負荷の解析を担う処理性能が、研究と創作のリズムを変える

中野氏が「ThinkPad P1」を使い始めたのは約3年前。それ以前は軽さを重視したノートPCを使っていましたが、「執筆には適していても、計算処理を伴う用途には向きませんでした」と振り返ります。

移動の機会が多い中野氏にとってモバイルワークステーションのバッテリー持ちは死活問題だという

「デスクトップでしか行えなかった処理を、モバイルで実行できる――。これは非常に大きな変化です。以前は、夜間に走らせた処理が途中で止まり、翌日が無駄になることもありました。いまは外出前に設定しておけば、戻るころには解析が終わっている。そうした心配がなくなりました」(中野氏)

数あるモバイルワークステーションのなかからThinkPadを選ぶ理由を、中野氏は「研究者の間では、ほぼデファクトスタンダードといえる存在」と表現します。

「堅牢で、止まることなく安定して稼働する。地味に思われるかもしれませんが、これは非常に重要です。画面も明るく見やすく、使い勝手も良好で、研究の道具として安心して任せられます」(中野氏)

研究の現場で中野氏が最も処理性能を求めるのが、脳画像の解析ソフト「SPM」です。何千枚ものスライス画像を扱うため、計算量は膨大です。

「解析はやり直すたびに最初から処理し直す必要があり、負荷の大きい作業です。それでも、かつて2日を要していた処理が、ThinkPad P1では約6時間で完了します。ソフトウェア自体の進化に加え、マシンスペックの向上も大きく、処理時間の短縮が働き方や生活スタイルそのものを変えました」(中野氏)

中野氏によれば、特に負荷が高いのは、診断用のMRI画像を解析用に整える「前処理」です。複数の被験者を横断的に比較する工程では、計算がとりわけ重くなります。こうした重い処理は、AIにコードを書かせる"Vibe coding"も含め、就寝前に設定しておき翌朝に結果を確認する使い方が中心です。こうして重い処理をマシンに委ねられることが、研究と創作のリズムを支えています。

自分自身を知る入口として、脳という未知への探究を続ける

科学と芸術、二つの領域にまたがって活動する中野氏は、今後の展望を語ります。

「今のAIの母体は大規模言語モデル(LLM)ですから、言語化できる情報しか載っていません。でも身体の情報は、そう簡単には言語化できない。たとえば、『肩がこった』という言葉を持たない欧米圏の人には、肩こりという概念がないのです。それくらい、まだ言語化されていない身体情報というのはあります。だからこそ、テクノロジーがこの領域にコミットできることは、まだまだ大きいと思います」(中野氏)

最後に中野氏は、脳科学者・アーティストとしての思いをこう語りました。

「脳科学はライフハックだと思われがちですが、本来は違います。脳は地球の誕生から40億年をかけてつくられたシステムで、生きて、考え、動いていること自体が尊いものです。長い時間をかけて形づくられてきた脳と、新しいテクノロジーとの対話を楽しむように、これからも活動を続けていきたいと思っています」(中野氏)

研究室から新幹線の車中、そして芸術祭の展示空間まで、場所を選ばず“止まらない”モバイルワークステーションは、脳という未知を見つめ続ける中野氏の思考と表現を、これからも支えていくことでしょう。


お客様プロフィール

お客様

脳科学者/医学博士/アーティスト 中野信子氏

プロフィール

1975年生まれ。東京大学工学部応用化学科を卒業後、同大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。脳科学者、医学博士、認知科学者。東日本国際大学特任教授、京都芸術大学客員教授を務め、脳や心理をテーマとした研究・執筆・メディア出演を行う一方、近年は脳波などの生体データを用いた表現・展示にも取り組み、アーティストとしても活動。2026年8月末開催の芸術祭「神戸六甲ミーツ・アート2026 beyond」にも出展。


"迷う力"を探る脳科学者の、止まらない相棒

脳科学者・アーティスト 中野信子氏の研究と創作を支えるThinkPad

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