導入事例
導入について
低価格なChromebookで築くクラウド学習環境は、教育現場に適切
大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎(大阪市天王寺区/以下、大教大附属天王寺)は、自主・自立の精神の重んじる国立の高等学校です。関西トップレベルの進学校として最難関大学への進学実績も高く、学業や部活動が活発です。
同校の特徴は、“個”を大切に、生徒の知的好奇心を広げる、質の高い学習や探究活動に力を入れている点です。学習指導要領の枠にとらわれない「スーパーサタデー」や、生命観を醸成するための学校設定科目「生命論」など、独自の学習カリキュラムを設定するほか、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)にも認定されるなど、教育活動が充実しています。
大教大附属天王寺では、2018年度からLenovoと共同でChromebookを活用した実証研究を始めました。
この経緯について大阪教育大学 副学長の吉田晴世氏は「文科省が初等中等教育に大学のSINET(サイネット、国立情報学研究所が提供・運用する学術情報ネットワーク)を開放する方針を発表し、本学も整備を進めています。
今後は初等中等段階でも、さらにICT活用が広がるので、大学としても附属校には力を入れていきたいと考えていました。そうした時に、今回の実証研究の機会を頂きました」と話しています。
また、今回の実証研究では、Chromebookを使用することに意義を感じたと吉田氏。「本大学はBYODで、学生たちは好きなPCを使って授業を受けます。しかし、機種がそろっていないうえ、古いPCを持参する学生もいるので、一斉に何かをしたい時にできないことがあります。そんな大学での様子を見ていると、初等中等段階では安価なChromebookで機種を統一し、クラウドを活用する学習が現場には適切ではないかと考えています」と吉田氏は述べています。
2018年度からスタートしたChromebookの実証研究では、同校に48台のLenovo 300e Chromebookが導入されました。また高校1年生から3年生まで全生徒480名と、全教師にG Suiteのアカウントも配布。全生徒と教師が教育機関向けクラウドサービス「G Suite for Education」にアクセスできる環境を築きました。
クラウド活用で学習の生産性を向上、文章記述も定量的な評価が可能に
大教大附属天王寺でSSHプログラムや生物を担当する森中敏行教諭は、Chromebookの活用について、まずは課題研究に取り組む一部の生徒たちを対象にスタートしました。
課題研究では、G Suite for Educationのクラウド学習環境が大いに活かされました。グループで『カレンダー』を共有してスケジュールを管理し、今まで紙で記録していた実験ノートも撮影して、写真をクラウドストレージ『ドライブ』で共有。
実験データを表計算機能『スプレッドシート』で集計して分析したり、グループでひとつのレポートを文書作成機能『ドキュメント』で共同編集したりと、研究活動の情報共有や編集作業に活用しました。
「今までは誰かが実験ノートを持って帰ってしまうと、“実験の続き”ができない状況でした。しかし、データやノート、写真を全てクラウドに蓄積するようになってから、生徒たちは自宅でも続きができるようになりました」と森中教諭。研究活動がよりインタラクティブになり、時間の効率化につながっています。
森中教諭はその後、教科の授業にも活用を拡大。学習管理サービス『Classroom』を用いた連絡事項の伝達や、レポートの提出・返却をはじめ、アンケート作成ツール『フォーム』で小テストやアンケートも実施するなど、学習活動の多様な場面で活かしました。生徒たちは、学校にいる時はChromebookや自分のスマートフォンで、また自宅にいる時は家庭のPCからアクセスしています。
森中教諭の取り組みで注目したいのは、学校設定科目である生命論の授業です。「生命論では、生徒たちが記述した文章を評価するのですが、定量的に評価できる方法を模索していました」と打ち明けます。そこで森中教諭は、生徒たちが広島研修に行く前と後で、フォームを用いた文章記述によるアンケートを実施。その内容をテキストマイニングのツール(User Local AIテキストマイニングを活用)で分析し、現地研修を通して、生徒たちにどのような変化が生まれるのかを文章から分析しようと考えました。その結果、研修前後で生徒たちのコメントには変化が見られました。
「行く前は、“怖いから近づきたくない”といった第三者的な意見が多かったのに対し、研修後は“怖い”が具体化され、自分がどう関わっていくか主体的な姿勢が見えました。紙に書いていたら見えなかったことも、デジタルだからこそ見えたと思います」と森中教諭は手応えを語ってくれました。今後はさらに取り組みを発展させて、アメリカの姉妹校の生徒にも同様の研修を提供し、日本とアメリカで意識の差を比較する学習にも挑戦していく考えです。
生徒へのアンケートを気軽に実施し、学習課題の発見と改善につなげる
英語科主任の乾まどか教諭もG Suite for Educationを授業で活かしています。森中教諭同様、Classroomを用いた週末課題の配布や提出、新聞記事やネット情報の共有、またドキュメントの音声入力を用いた発音練習など幅広く活用しています。
乾教諭の取り組みで特徴的なのは、フォームを用いたアンケートを頻繁に実施し、生徒の学習改善に活かしているところです。たとえば、4技能について生徒にアンケートを実施したときのこと。多くの生徒が「リスニングは苦手」と答えた一方で、「スピーキングとライティングは得意」という回答結果が得られました。
ところが、実際にGTEC(Global Test of English Communication、ベネッセコーポレーションが実施しているスコア型英語4技能検定)の試験を受けたところ、高得点だったのは、生徒たちが苦手と答えたリスニングでした。
逆に、得意だと思い込んでいたライティングの点数は4技能の中で一番低かったそうです。乾教諭は生徒たちに対して、GTECの得点やアンケート結果をデータで示しながら、現状の英語力について話す時間を設けました。
「実際に数値を見せながら、リスニングは一番得意だから苦手意識をなくそうと説明できたことが良かったです。その後、生徒たちの9割は、学習に対する改善点が見つかったとアンケートで答えてくれました」と乾教諭。
もし、このようなアンケートを実施せずに授業を進めていたら、ライティングを伸ばす時間は取らなかったかもしれません。「今まで紙でアンケートを実施していた時は、集計に時間がかかり、年に2回程度しかできませんでした。しかし、今は気軽にアンケートができる環境なので、学習改善にもつなげられたと思います」と乾教諭は述べています。
ほかにも乾教諭は、科学英語の授業で、科学に関する英単語を集めた書籍の作成に取り組んでいます。例えば、「Shapes」というテーマであれば、四角形や三角形などの英単語をイラストと共に紹介し、クラス全員でひとつの科学図鑑を作ろう、というものです。生徒たちは2人1組になってドキュメントで原稿を制作し、ドライブにデータを保存しながら作業を進行。
乾教諭は「この活動では、私は“科学に関する書籍を作りたい”と話しただけで、あとは生徒がすべて自分たちで作業を進めました。全員のデータがドライブ上のフォルダに保存してあるので、他の班の生徒がコメントを入れたり、足りない部分をアドバイスしたりと、協力して取り組む姿が見られました」と話してくれました。生徒同士が自由にやり取りできる環境で、互いに学び合う場を築いているというのです。
海外研修や職員会議、働き方改革にも有効。広がるChromebookの活用
大教大附属天王寺では、他にもいろいろな場面でChromebookやG-Suite for Educationを活用しています。
たとえば、海外にある姉妹校との共同研究。コミュニケーションツール『Hangouts Meet』を活用して研究テーマを決め、ドキュメントでデータ測定や実験結果を共有しながら進めています。また教員間では、職員会議で配布する資料をドライブで作成するようにしました。連絡のある教員がそれぞれのタイミングで書き込むようにし、共同編集でひとつの会議資料を作成するなど、効率化に向けた取り組みも始めています。
乾教諭は、連絡事項の伝達など時間を設定して配信できるのが良いといいます。授業中に何か伝えるのを忘れた時も、思いついた時に書き込み、配信時間を設定しておけば生徒たちに伝えることができます。
ほかにも、乾教諭は教科書や教材のデータをドライブ上に保存し、自宅からアクセスできるようにしました。
「今までは教材を忘れたら学校まで取りに来ていましたが、今は、クラウドのドライブ上にある教材へアクセスし、自宅から仕事をしやすくなりました」と乾教諭。教員の働き方を変えるツールとしても有効です。
Chromebookについては、クラウド上で全てできることがメリットだと森中教諭は述べています。なかでも、Chromebookはクラウド上の管理コンソールを用いて、端末管理ができるので、現場の負担軽減につながっているといいます。
「OSのアップデートも自動で行われ、端末のセキュリティ設定もクラウド上で完結します。今まで端末管理にかかっていた時間も削減できるようになりました」(森中教諭)。
アウトプットが広がり、自分の世界を見せてくれる生徒たち
ChromebookやG-Suite for Educationの活用を通して、生徒たちはどのように変化しているでしょうか。
生徒たちのアンケートからは、“先生との距離が近い”、“学習の管理がしやすい”、“学校で学習したことを家で簡単に復習できる”など、好意的な意見が寄せられています。情報がきちんと共有され届くことや、フィードバックが早いことに、生徒たちは教員との距離感の近さを感じているようです。
乾教諭は、生徒たちが今までとは違うアウトプットが可能になったことで、自分の世界を見せてくれるようになったといいます。ドキュメントでレポートを作成するときも、自分の興味あることや、好きなものの写真を貼り付け、それについて書く生徒が出てきました。
乾教諭は「生徒のレポートを見て、“こういう一面もあったのか”と気づくことがあります。紙でレポートを書く時は、写真を貼り付けることができないので話題が狭いですが、デジタルでは生徒たちの表現が広がっていると感じます」と語ってくれました。
今後の取り組みについて森中教諭は、生徒間のITリテラシーの差を解消するためにも、Chromebookを活用する教員を増やしていきたい考えです。
また、海外の姉妹校との共同研究に力を入れ、交流できる場面を増やしながら、互いに高め合う研究活動に発展させていきたいといいます。力のある生徒たちをさらに伸ばしていくためにも、ICTはどのように活用できるのか。同校での実践に期待が寄せられます。
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