3D CADデータの複雑化・大規模化に加え、解析ソフトやレビューツールの同時並行など、現代の設計現場においてPCに求められる負荷は高まり続けている。そうした中、瞬間的な処理速度といったカタログスペックだけでハードウェアを選定した結果、安定稼働に悩まされるケースが少なくない。本記事では、株式会社CADistの協力のもと、レノボのワークステーション「ThinkStation P3 Tower」(以下、P3 Tower)とゲーミングPCを用いた長時間耐久テストを実施。実務上"本当に"有用なマシンはどちらなのか、その結果を報告する。
特集
実務で“本当に”使えるマシンはどっち? ThinkStation P3 Tower vs ゲーミングPCの 長時間耐久検証で証明したワークステーションの優位性
「グラフィックボードさえあれば動く」の思い込みが招くトラブル
近年、製造業や建設業において、扱う3Dデータは複雑化の一途をたどっている。数千から数万に及ぶ部品で構成される大規模アセンブリの操作や、高画質なレンダリング、さらには3Dスキャナーで取得した大容量の点群データの活用など、快適な設計環境を構築するためには、高いグラフィックス処理能力を持つハードウェアが不可欠となっている。
しかし、現場でのPC選定において、家電量販店などで手に入りやすいゲーミングPCを安易に業務へ導入してしまうケースが散見される。3D CADの導入コンサルティングやトレーニング、ハードウェアの選定・購入支援までをワンストップで提供する株式会社CADist 取締役CSO(最高戦略責任者)の千野 貴弘氏は、現場の実情について次のように話した。
「『グラフィックボードが搭載されていれば、3D CADは快適に動くはずだ』と考え、ゲーミングPCを購入してしまうお客さまは、現在でも一定数いらっしゃいます。実際に、工場内の工作機械のすぐ近くにゲーミングPCを置き、CADやCAMを動かしているケースもありました」(千野氏)

実際、製造工場内という、ゲーミングPCの使用を想定されていない環境でゲーミングPCを使用している企業もあり、CAMのプログラムが途中で頻繁にフリーズするなどの不具合に悩まされ、導入からわずかな期間でマシンが限界を迎えそうになったケースもあるという。
「例えば、最新のゲーミング向けGPU『NVIDIA GeForce RTX 5070』と、プロフェッショナル向けワークステーション用GPU『NVIDIA RTX 4000 Ada世代』を比較した時、ぱっと見で『5070の方が、数字が大きいから性能も高いのだろう』と単純なスコア(数値)のみで選定するお客さまも少なくありません。」(千野氏)
確かに、ゲーミングPCでも3D CADは動作する。だからこそ、アプリケーションのエラーや、PCの寿命が極端に短くなったりしても、「アプリケーションの使い方が悪いのか」「自分の使い方が悪いのか」と悩み、根本的なハードウェアの用途の不適合に気が付けない設計者が多いという。
ゲーミングPCによる3D CADの設計業務は本当に通用するのか?
設計現場のPCは、一般的なオフィス業務と比べても稼働時間が長い。通常業務時間と言われる8時間はもちろん、解析処理ともなればPCを動かしたまま退社するケースもある。つまり、求められるのは瞬間的な高パフォーマンスではなく、長時間にわたって安定した処理を維持し続ける「持久力」や「耐久性」といえよう。
では、ゲーミングPCの「持久力」と「耐久性」はどうか。確かに、ゲーミングPCでも3D CADを動かすことは可能だ。だからこそ判断が難しい。千野氏はゲーミングPCとワークステーションの本質的な違いをこう表現する。
「ゲーミングPCは高解像度の映像をリアルタイムで描画するような瞬間的な処理、つまり『瞬発力』に特化しています。陸上競技で言えば、優秀な“スプリンター”です。一方、ワークステーションは少ない電力で安定した性能を長時間維持する『持久力』と『耐久性』に特化した設計であり、いわば“マラソンランナー”ですね」(千野氏)
一般的に考えても、スプリンターをフルマラソンの大会でいきなり走らせるのは現実的ではない。しかし、それはあくまで競技での話だ。カタログスペックだけを見れば、ゲーミングPCの数値は決して見劣りしない。では、実際の設計業務という長時間の連続稼働において、両者の間には本当に無視できない差が生まれるのか。CADistのエンジニア監修のもと、実務を想定した連続稼働テストで、その答えを確かめた。
ワークステーションとゲーミングPCを実務シナリオで徹底比較

今回の検証では、設計業務の1日を想定した連続稼働を実施。評価の指標としたのは、Windowsのタスクマネージャーから取得した「GPUの温度推移」と、信頼性モニターに記録される「クラッシュ(アプリケーションエラーやフリーズ)の発生回数」だ。
比較対象として用意したのは以下の2台である。
また、検証を行ううえで、両マシンで同一バージョンのAutodesk製品(Inventor、Navisworks、Fusion、AutoCAD)を同時に起動し、実務の1日に即した以下のシナリオを実行。さらに業務終了後の夜間放置まで含めた長時間稼働を継続した。
なお、両マシンの電源プランは「高パフォーマンス」に統一し、スリープおよび画面オフは無効に設定。室温20℃の環境下で実施した。

浮き彫りになったクラッシュ回数の明確な差
耐久テストの結果、P3 TowerとゲーミングPCの安定性の差は、数字となって明確に表れた。
決定的な差が出たのがクラッシュ回数である。P3 Towerは、8時間の間に一度もアプリケーションが落ちることなく(クラッシュ回数:0回)、全工程を完遂した。
一方、ゲーミングPCは、Inventorで2回、Navisworksで2回、Fusionで1回、AutoCADで1回と、計6回ものエラーやフリーズを頻発させた。
「特に目立ったのは、複数のアプリケーションを開いたまま作業を切り替えるタイミングでの不安定さです。昼休憩明けにInventorを触ろうとした瞬間にライセンスエラーで全アプリケーションが落ちたり、Navisworksとの連携時にフリーズしたりと、メモリ内にキャッシュが蓄積していく状況で息切れを起こす挙動が確認されました」(千野氏)
ISV認証の見えない安心感と、適材適所の「拡張性」
この安定性の違いを生み出している背景の1つに、ISV認証(独立系ソフトウェアベンダー認証)の存在がある。
「最初の話にもありました通り、『グラフィックボードが載っていればどれも同じだろう』と考える方も多いですが、ワークステーションはAutodeskなどのソフトウェアベンダーに対して事前に機材を提供し、『この組み合わせであれば正常に問題なく動く』というお墨付き(ISV認証)を得ています。ゲーミングPC、つまりゲーム向けのGPU搭載のPCはこの認証を取得していません」(千野氏)

3D CADの運用においては、CAD本体だけでなく、解析ソフトやレビューソフトなど、複数のツールを並行して動かすことが多い。ISV認証を取得しているワークステーションであれば、確実な検証に基づいた環境のためトラブルのリスクを極小化できる。
また、レノボのワークステーションは、単に高性能なパーツを載せているだけでなく、筐体ごとに熱の出方を計算し、効率的にパーツを保護するサーマル設計が最適化されている。「結局のところ、業務で使うPCで一番困るのは途中で止まったり壊れたりすることです。メーカーが工夫を凝らした熱設計や、ソフトとの相性を保証するISV認証といった『カタログの数字には表れない部分』が、長時間の安定稼働に直結してきます」(千野氏)
適材適所という観点で言えば、どのワークステーションを選ぶかも重要だ。千野氏は、点群データの処理や流体解析、カタログ作成用の高画質レンダリングといった重い処理になってくると、小型のエントリーモデルではスペック不足になるケースがあると指摘する。
「将来的なグラフィックボードやメモリ、ストレージの増設に柔軟に対応できるタワー型の拡張性は、開発部隊や解析専任者にとっては特に重要な条件になります」(千野氏)
検証が示した、長期投資としてのワークステーションの価値
今回の検証結果が示したのは、長時間稼働後のアプリケーション切り替え時の安定性では、ワークステーションに軍配が上がったという事実だ。瞬間的な発熱への対応はゲーミングPCも十分に機能しているが、設計業務でよくある「長時間開きっぱなし」「繰り返しデータ確認」「複数アプリの並行稼働」といった用途では、両者の差が明確に現れた。
千野氏はライフサイクルの観点からこう話す。
「今回の検証で、設計業務における両者の差は数字として明確に出たと思います。適切なワークステーションであれば、長ければ9年近く現役で使い続けられるケースも珍しくありません。ゲーミングPCにとって、本来向かない環境で使い続けた結果、2~3年で限界を迎えてしまう、あるいはサポートが得られない、そのような結果となってしまっては、結果的に費用がかさみます」(千野氏)
検証結果と千野氏の話から、ハードウェアも適材適所での運用が非常に重要である。
製造業の安定した生産性を維持するためには、スペックはもちろん、実務に耐えうる「持久力」と「耐久力」を持ったPCが最適だ。
生産性維持のため、そして強固な基盤を作るために、どちらをも併せ持ち、業務で利用するソフトウェアのISV認証を取得したプロフェッショナル向けのワークステーションをぜひおすすめしたい。




